メランコリーとユーモア、絶望と希望−
スクリーンに映し出されることのなかった
都市部のゲットーに住むアフリカ系アメリカ人の生活を、
鋭い洞察力をもって描いた「アメリカ・ネオリアリズムの傑作」
メランコリーとユーモア、絶望と希望−
スクリーンに映し出されることのなかった
都市部のゲットーに住む
アフリカ系アメリカ人の生活を、
鋭い洞察力をもって描いた
「アメリカ・ネオリアリズムの傑作」
ワッツ暴動(1965)の爪痕が残る、1970年代初頭のロサンゼルス・ワッツ地区。妻と二人の子供を養うスタンは羊の屠殺場で働いているが、日々の労働と貧困により肉体的にも精神的にも疲れ果てている。夜も眠れず自分の殻に閉じ込もるスタンとの関係を、妻は思い悩む。貧しさに気づかないまま無邪気に遊ぶ子供たちも、いつかは大人になることを学ばなければならないー。
UCLA映画学部の大学院生だったバーネットの卒業制作にして初長編作。ワッツに暮らす労働者階級の一家と周囲の人々が経験する小さな敗北の数々が、詩情豊かなモノクロ映像と印象的な音楽とともに、エピソード形式で描かれる。「私が知っている人たちについての映画を作りたかった」と語るバーネットが、わずかな予算で、大学から借りてきた機材を使い、身近な人々を中心とした素人のキャストを集めて自身の地元ワッツで撮影。都市に暮らすブルーカラーの黒人たちの日常生活は、ハリウッド映画ではほとんど描かれることがなく、題材そのものが画期的であった。
いくつかの大学や映画祭で上映された後、ベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞。主観を排したドキュメンタリー風のスタイルは、ロベルト・ロッセリーニ監督『戦火のかなた』や、ヴィットリオ・デ・シーカ監督『自転車泥棒』などのイタリア・ネオリアリズム映画を引き合いに、高く評価された。 本作でアフリカ系アメリカ人の音楽の歴史を表現しようとしていたバーネットは、劇中で様々なジャンル、時代の音楽を使用しているが、制作時に商業公開を念頭に置いていなかったため、楽曲の使用許可を得ていなかった。そのため長い間劇場公開されず、この作品を見た一部の幸運な映画ファンの間で秘密の宝石のように語り継がれる伝説の映画となった。
2000年、UCLAのアーキビスト、ロス・リップマンによって劣化していた16ミリプリントが修復されたのち、35ミリにブローアップされた新しいプリントが完成。2007年にスティーブン・ソダーバーグ監督の協力を得たマイルストーン・フィルム社が音楽著作権問題を解決したことにより、初上映から30年を経て、ようやく アメリカでの劇場公開が実現した。
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KILLER OF SHEEP キラー・オブ・シープ
監督・脚本・製作・編集・撮影:チャールズ・バーネット 音響:チャールズ・ブレイシー
出演:ヘンリー・ゲイル・サンダース、ケイシー・ムーア、チャールズ・ブレイシー、 アンジェラ・バーネット、ユージーン・チェリー、ジャック・ドラモンド
1977年/アメリカ/81分/スタンダード/B&W/モノラル/原題:Killer of Sheep 日本語字幕:碓井洋子/協力:映画美学校 翻訳仕事場プロジェクト
1981年ベルリン国際映画祭 国際批評家連盟賞
1982年サンダンス映画祭 審査員大賞
1990年アメリカ議会図書館 「国立フィルム登録簿」登録
2002年全米映画批評家協会「史上最も重要な映画100本」選出
2007年ニューヨーク映画批評家協会賞 特別賞
*ブルーレイでの上映